想いと思い出
3年前、キャンプ場でのウェディングを終えた次の日。近くにある蕎麦屋に立ち寄った。ウェディングを手伝ってくれた仲間一人を連れて年配のご夫婦がやっている小さい蕎麦屋さんだ。
店内は6〜7人で満席になるぐらい狭く、店の外に5人ぐらい並んで待っていた。僕らも60代ぐらいの夫婦の後ろに並び案内されるのを待っていた。僕らの前のご夫婦が案内されるタイミングで「4人ご一緒ですか?」と聞かれた。僕は「いえ別々です」と答えた。どうやらテーブル席が空いたらしく4人まで入れるとの事だった。
60代ぐらいのご夫婦は嫌がらずに「相席でいいですよ」と声をかけてくれた。蕎麦の注文を終えると奥さんの方が「今日は何しにこちらに」と聞いてきた。「近くのキャンプ場で昨日結婚式を挙げてきたんです。」と少しためらいながら僕は答えた。
この年齢の方にキャンプ場で結婚式っていうのはどうかな〜っと思ったからだ。僕らの年代ならともかく、価値観が違いすぎる人に伝えるのは難しいと思ってしまった。「私の娘が昨日それに参加していたわよ。」「えっ!! 本当ですか。」まさかの展開だ。
娘の写真を見せてもらうと確かに昨日見た顔だった。こんな偶然あるんだなと手伝ってくれたスタッフと笑顔になった。ご夫婦も嬉しかったのか直ぐに電話して「今、アッキーさんと蕎麦食べてるの〜!!」って答えていた。娘からしたら意味不明だ。昨日の結婚式をプロデュースした人が親と蕎麦食べている。有名芸能人なら嬉しいだろうが、普通の人だ。
話は結婚式の事になり今までどんな結婚式をしてきたのか聞かれた。色々ありすぎてどれを話したらいいか迷ったが、その中で感動という印象が強い式が一件あったのでそれを話す事にした。
それは森の中でプロデュースした結婚式だった。
新郎は大学生の時に父を亡くしていた。新婦は親が離婚し、それから再婚しやってきた父をおじさんとしか呼べず父と認められずにいた。新郎は結婚する事で義理でも父と呼べる存在が出来る事は嬉しかったが新婦との関係性を考えると複雑な気持ちになっていた。
そんな二人から結婚に対する想いや考えを聞いていく中で、新婦は母と再婚したおじさんの事を強く考えるようになっていた。自分が祝福される前に母とおじさんを認めてあげないといけないのでは。しかし、そうは言ってもかなりの時間が経ち、今更素直に向き合う事も・・・。結婚式の最後に母とおじさんの挙式をしよう。それが新郎新婦と話し合って出した答えだった。
式の最後、挨拶中に新郎が自分の気持ちと新婦の母と父の事を話し涙ながらに「皆さんで二人に結婚式をプレゼントしたいんです」と言うと、会場に居た全員が涙ながらにそれを了承し、その式ではじめて新婦はおじさんとしか呼べなかった母の再婚相手を「お父さん」と呼んだ。笑顔と涙につつまれた感動の結婚式だった。
蕎麦が来るまでの15分ぐらいの時間だっただろうか、僕の話を聞いていた60代の夫婦の目は涙で溢れていた。「いい結婚式だね。」価値観も違い年齢も違う、たまたま逢った初対面の夫婦に褒められた事が素直に嬉しかった。自分ではいいと思ってやっている事だが不安になる事も正直ある。本当にこれでいいのか、果たして正しいやり方なのか、毎回自問自答している。でも、その夫婦の一言が僕の今の自信になっているのは間違いない。
先日、日立の海でのウェディングを無事終えた。天候にも恵まれ最高の一日だった。手伝ってくれた仲間や関係者の方にも心から感謝している。そしていつも不安になった時に思い出すあの夫婦の事も。
今回もとても楽しかった。
写真はその時のもので茨城出身の二人の写真家、仲田絵美さんと瀬能啓太さんによって撮られた写真だ。
この二人に撮ってもらえるなんて羨ましい限りだ。
末長くお幸せに。